s-考え方

 写真は世界の中で企業に障がい者の雇用を義務付けている国と、設けていない国の代表例です。「企業の社会的責任」として、雇用を義務付けしている国と、「社会全体で雇用する」のふたつの考え方があります。どちらが良いとか悪いとかではありません。考え方の違いと理解してください。

 前回書いた通り、昨年の全国の民間企業の障がい者雇用率は2.15%でした。しかし、この数字は厳密には、民間企業だけではありません。従業員45.5人以上の就労継続支援A型事業所の雇用も含まれています。A型ですから、従業員のほとんどは障がい者です。従って、ルール通りに計算すれば、60%とか70%などの雇用率になってしまうのです。中には100%を超える事業所もあります。

 企業が2%前後で苦戦しているのに対し、2桁の雇用率の事業所が複数あれば、その自治体の雇用率は跳ね上がります。雇用率上位の自治体にはこの様なケースが見受けられます。ただ、これはルールで認められているので全国共通です。仮にA型事業所を計算から外せば、ほとんどの自治体は今の半分以下になってしまいます。

 A型事業所は福祉と就労の2面性をもっています。訓練等給付費と特定求職者雇用開発助成金の2種類の給付を受けることが可能です。さらに、従業員が100人を超えて、法定雇用率を満たしていれば、超えた人数に対して給付金ももらえます。つまりトリプル受給も可能になる訳です。一時期、この「おいしい制度」を悪用して、質の悪いA型事業所が乱立した時期もありました。A型事業所が自治体の雇用率に大きく寄与しているのも事実なので、当分はこの計算方法が続くものと思われます。

 最近の障がい者の雇用形態にも特記すべき問題もあります。以前にも書いた「障がい者雇用支援サービス」という民間企業がやっているサービスです。支援サービスと言えば聞こえはいいのですが、早い話が「障がい者雇用代行サービス」なのです。つまり、お金さえ払えば、障がい者を雇用した事に出来るのです。遠隔地の農場などで障がい者を雇用している会社に管理・運営を任せて自社の所属社員として雇用する訳で当然自社の雇用率として算入出来るのです。利用する会社は、給料だけは直接社員に支払い、管理費などをサービス会社に支払う仕組みです。日常の出退勤管理や健康管理なども、この代行会社のスタッフがやってくれるのです。

 地方や離島で障がい者の働く場の少ない地域に、代行会社を設立している事例がほとんどです。唯一のメリットは、地方や離島などでの働く場の提供くらいしかありません。(半面、地元の福祉サービス事業所ではごっそり利用者を持っていかれる事態になっています)
雇用率未達で納付金を収めるならに、少し高くてもこの様な制度を使う方が楽なのです。雇用している障がい者の顔と名前も知らなくても可能になります。


 この様な雇用形態での雇用は雇用ポイントを半分にしても良いと個人的には思っています。つまり、代行サービスを使って6人雇っても、カウントは3人にするなどです。私は本来の障がい者雇用は、自社で障がい者が出来る仕事を創出することだと思っています。このサービスを利用している会社には、誰でも知っている様な大きな企業も含まれています。障がい者雇用の「好事例」として、紹介されたこともあり驚いたことがあります。前号で書いた、企業の障がい者雇用の曲がり角と言われる一面だと思います。

 これも企業向けセミナーなどでいつも言っている事ですが、これからの障がい者雇用は「義務から戦力」として雇用する時代になりました。特に中小企業にとって、慢性的な人手不足でもあり、障がい者を戦力として雇用することは大切な経営課題と言えます。中小企業にとって障がい者を雇用しやすい環境や制度の整備、支援体制の充実が今後の雇用率向上のポイントになると思います。単に雇用義務の数字だけを上げるだけでは、やがてこの制度も立ちいかなくなるかと思います。


訂正とお詫び
読者の方から、ご指摘して頂きました。前号Vol/559で法定雇用率の推移の説明に誤りがありました。法定雇用率の雇用義務のスタートは1.6%ではなく、1976年の1.5%でした。訂正してお詫びします、

おわり

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